社内の異動には、社員に色々な部門で仕事の経験をさせたり、不向きな仕事をしていて成果のあがらない社員を他の部署に移したりする目的があります。また、人を入れ替えることで職場の活性化を促したり、同じ人が特定の業務を長年行うことで生まれやすくなる不正を防止するといった目的もあります。様々な意図があって社員の部署の異動は行われています。
あまり表に出てこないですが、次のような目的もあると考えています。
幹部候補の人間には部署の異動を経験させ、いくつかの部門の人たちと一緒に仕事をさせて、その部門の人たち、とくに部門長に仲間意識を醸成させる目的です。
ある有望な社員を、経営陣レベルに昇格させるときに、各部門の部長や役員から、
「なんで、あいつが昇格するんだ?おかしいだろ?」
と思われてしまう人よりも、
「あいつは、以前に仕事一緒にしたけど、まあいいヤツだったな。あいつが役員になるのか。なるほど。」
と思われる人のほうが、その後の仕事が円滑に進められるはずです。
つまり、一緒に汗を流したり、同じ釜の飯を食べることで、周りの人に役員になるのを認めてもらえるということです。
これは、私が耳にした話です。
あるとき、経営陣の部長が次に経営に参画する候補者の話をしていたのを聞きました。その候補者をAさんとします。
部長は製造部門の人間で、(Aさんのいないところで)Aさんについてこのようなことを言っていました。
「Aが次期の経営メンバーになるっていう話があるんだよな。」
「Aは製造部門やったことないから、一度やったほうがいいんじゃねえか。」
「部下をまとめる力があるのかどうか疑問だ。経営陣に加わるのはどうかと思う。」
部長はAさんとは同じ部門で一緒に仕事をしたことが無かったのでした。
他部門の人のことを少し悪く言ったり、自分の部門の人をヒイキするのは、どこにでもあることだと思います。現経営陣の部長にとってみたら、他の部門から次の経営メンバーが出てくるよりも、自分の部門から出てきてと思うはずです。
でも、仮に、この部長とAさんが数年一緒に仕事をしたことがあり、仕事の相性もまあまあ良かったという経験があったらどうでしょう。上に書いた部長の意見は変わってくるはずです。
「人の上に立って、部下をまとめる力があるかどうか疑問だよなぁ。経営陣に加わるのはどうかと思う」
と言っていた言葉は無くなり、
「昔一緒に仕事をしたときは、仕事ぶりはまあ良かった。やってみてもいいんじゃねえか?」
のような言葉に変わるでしょう。
同じ部署で仕事をする。一緒に問題を解決する。同じ釜の飯を食って、飲み会では一緒に酒を飲む。こういった過去が少しでもあれば、「まあ、あいつならいいかな」と思うようになる。部署異動は上記のように周囲の合意をとりつけることに役立っているでしょう。
人が他人に対してどういった対応をとるかは、その心理状況に左右されますから、Aさんが経営陣に加わる場合、すでにいる経営陣の人たちに認められるほうが、Aさんは仕事を進めやすくなります。そして会社全体の仕事もスムーズになるのです。なんだか実に日本的な考えなのですが、部署異動にはこういった役割もあるのではないでしょうか。
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